会社を辞めるのは逃げになるのか――。
40代になるまで会社員を続けていると、「もうやってられない」「自分の人生を取り戻したい」と思う人も多いのではないでしょうか。
歪(いびつ)な社内の人間関係にうんざりしたり、労働条件に大きな変化があったり…。
人生の折り返し点に立ついまこそが、先々の身の振り方を考えるのにちょうどいいタイミングかもしれません。
大きな成功を目指さないまでも、ひたすら縮こまって人生を終わらせてしまうのは、やるせなくなるものです。
そんなとき、視野に入るのが40代での「早期退職」。
「根性を据えていまの会社で我慢する」と腹をくくるもよし。
「人生を変える最後のチャンス」に勇気を振り絞れる人は、40代で退職し、独立や転職を一考するのも手です。
かくいう私も、20年勤めた会社を退職した口です(最下段にプロフィル)。
それまでは全国紙の記者を務めていました。
妻と2人の子を持つだけに、ずいぶん悩みましたが、自分の人生を棒に振りたくない一心で、40代での退職を決意しました。
そこに後悔はありません。
とはいえ、長年勤めた会社を辞めるのは多少なりとも後ろめたいもの。
昭和世代の上役のなかには「嫌なことから逃げているだけ」「甘いんじゃないか」と考える向きもありました。
ただリアルな40代退職者として言わせていただくと、40代の離職・転職は責任放棄を伴う逃げでもなければ、甘えでもありません。
そもそも「離職は逃げ」との指摘は、脱サラはおろか転職すら経験したことがない人の口から語られるのが相場です。
20年勤めた会社を辞めたからこそ、見えてくる真実があります。
というわけで今回は、会社を辞めても逃げにならない理由について、経験者の立場から3つの視点でまとめました。
Contents
転職者数は年々増加傾向に
ご存知でしょうか。
転職者数は年々増加傾向にあり、すでに日本も2人に1人が転職を経験している時代に入っています。
総務省がまとめた労働力調査によると、2019年(月次平均)の転職者数は351万人となり、過去最高を記録しました。
うち35歳~44歳の転職者は66万人、45歳~54歳は57万人といずれも高い水準に達しています。
イレギュラーな要素が多い2020年実績こそ、前年比32万人減の319万人と10年ぶりに減少しているものの、仕事に対するかつての常識は確かに変わってきています。
識者のなかには「日本型雇用の枠組みは事実上すでに崩壊している」との向きもあります。
身を粉にして働く美学を学んだ我々世代の価値観も、旧態依然とした「昭和の産物」になりつつあるわけです。
ねこ吉
みふき
ねこ吉
みふき
私の体験談
私の場合、退職に至るまでの間で本当に苦しかったのは、会社を辞めるかどうか悩んだ時期でした。
それは、自分の中にある古い常識との戦いでした。
不安や恐怖もぬぐえません。
退職への具体的な準備を進めながら、1年ほど悩み抜きました。
上司に退職を伝えるときは、勢いの力を借りながらも、勇気を振り絞りました。
涙がこみ上げてきました。
実際に40代で退職した身として思うに、多少のことは我慢して仕事を続けた方が、きっと色々な意味で楽です。
- 大きなリスクを冒さずに済む
- 周囲の説得など大きなエネルギーを使わずに済む
- 一から出直す必要もない
- etc…
40代での退職は「それでも辞めたい」と言い切れる人だけが超えられるハードルです。
そんな私の経験から、40代の退職が逃げにならない理由を以下に3つ、挙げたいと思います。
40代退職が逃げにならない理由①そもそも軽い決断ではない
平成世代からみた40代は「我慢強い」といわれます。
終身雇用が前提だった時代を生きた我々にとって、会社や学校での「理不尽に対する我慢」は美徳でさえありました。
かつては「企業戦士」「モーレツ社員」などとがむしゃらに働く社員を称える言葉もありましたが、いまは「社畜」と呼ばれるのかもしれません。
そんな我々40代世代が長年勤めた会社を退職するには「決死の覚悟に似た勇気」が求められます。
とくに転職も初めての場合、周囲からの反対・反発はつきもので、これを押し切ったり、受け流したりするのには、大きなエネルギーが必要になります。
つまり、働き慣れた会社を離れる決断は、誰しもが簡単にできるほど「軽い選択」ではないわけです。
終身雇用の常識のなかで育った40代の退職は「逃避」とは真逆の行為に他なりません。
少なくとも私の場合は、不安や恐怖との戦いになりました。
「逃げるのか」というのは、引きとめようとする人の常套句(じょうとうく)ですが、少なくとも40代の退職希望者に向けて良い言葉ではありません。
40代退職が逃げにならない理由②欠員の穴埋めは会社側の責任
自分が抜けると周りに迷惑がかかるーー。
そんな社会人としての良識をもって、理不尽な状況に耐え続ける人が私の身近にもいます。
組織に義理立てるのは悪いことではないにせよ、そこまで背負いこむ必要が本当にあるのでしょうか。
断言しますが、会社組織のなかに「特定の個人にしかできない仕事」など存在しません。
仕事のクオリティの差はともかく、後任を用意するのは企業側の責任です。
つまり退職者が担うべき責務は道義上、引継ぎを含む残務処理と技術継承までであり、それ以上の責任を個人が負う必要などないわけです。
もし退職後に「残務処理」で呼び出されても、いったん雇用契約が解消されてしまえば、応じる必要はありません。
これを理由に退職金の支払いなどを拒否された場合、労働基準監督署に飛び込めば、スムーズに解決してくれます。
ただしおすすめは、いわずもがな円満退職です。
とくに転職を考える場合は、下手な悪評が足かせになるケースも少なくありません。
私はかつて(新聞記者の立場から)公益事業者の技術継承問題や人材不足などの課題を追いかけたことがありました。
確かに「キーマンやベテランが抜けて困っている」という話はよく耳にしましたが、正直なところ、「職場が崩壊した」という一度も聞いたことがありません。
もちろん「職場による」といってしまえばそれまでですが、問題提起すべき現状とリアルな現実には往々にしてギャップがあるもので、「語りにくい真実」があるのも確かです。
引継ぎさえきちんと済ませれば、あとは会社側、組織側の問題として処理されるのが筋です。
ただし、繰り返しになりますが、「円満退社は自分のため」でもあり、飛ぶ鳥跡を濁さずが基本になります。
そのためにも、ベテラン社員ならではの独自ノウハウやスキルはあらかじめ、職場に残しておくべきです。
40代退職が逃げにならない理由③離職は仕事上の問題ではない
40代の転職・離職は、仕事上の問題ではありません。
極めて個人的な問題であり、かつ人生をかけた選択です。
職業選択の自由は公共の福祉に反しない限り、日本国憲法に保障される権利です。
もちろん個人的な問題である以上、行動に対する責任もすべて自分で負わねばなりません。
ただし、注意が必要なのは法的効力を持つ「就業規則」です。
就業規則は、退職するのに必要な情報も網羅されているため、必ず目を通すべきです。
転職先が決まっている場合は?
転職先が決まっている場合は年代を問わず、「裏切り者のそしり」を受けることもしばしば。
会社によっては「必要以上の説明」を求められ、吊るし上げを受けることさえあります。
このあたりはある種の通過儀礼ともいえますが、とくにスキルアップの場合は転職先を秘密にするのが鉄則です。
転職は「飛ぶ鳥跡を濁さず」で
いくら理不尽極まりない職場であっても、後ろ足で砂をかけて出ていく行為はNGです。
転職希望先の人事担当
元職場の社員
こうした具合に、古巣からの情報が転職先の採用担当に漏れるケースは珍しくないからです。
とくに同じ業界内で転職を志す場合は注意が必要です。
サラリーマンの人脈は決して馬鹿にできません。
また会社を辞めても、本当に仲を深めた上司や同僚との関係は切れないもの。
フリーランスの立場で成功すれば、古巣から仕事をもらえるチャンスがめぐってくるケースもあります。
身の振り方が決まっていない場合は?
逆に退職後の身の振り方が決まっていない場合は一般的に、家族や周囲からの理解を得るのに相当の苦労を強いられます。
私の場合、周囲からの理解は比較的スムーズに得られましたが、それでも夫婦の足並みが退職の方向にそろうまでに、少なくとも1年はかかりました。
40代の退職は、周囲から見ると「リスク」にしか映らないものです。
また最初に目指したのが転職ではなく独立だったため、両親の失望、落胆ぶりは凄まじいものでした。
義父母に離職の意向を伝えた時は手が震えるほど緊張しました。
ただ、退職で傷ついた両親との親子関係は、収入面の問題さえクリアすれば修復は容易です。
退職するもしないも「本人の自由」ですが、親族には話だけでも通しておくのがおすすめです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は40代の退職が逃げに当たらぬ3つの理由について執筆しました。
まとめは以下の通りです。
- 40代での退職は誰にでもできる軽い決断ではない
- 引継ぎは道義上必要でも欠員の穴埋めは会社側の責任
- 退職はそもそも本人が全責任を負う極めて個人的な問題
最後までお読みいただき、ありがとうございました。